魂の輝きに

囀る鳥は羽ばたかない 34話考察②「同じ雨に打たれることー雨と矢代、傘と百目鬼」

続いて「囀る鳥は羽ばたかない」で用いられる雨の描写について考察。

以下ネタバレを含んでいます。ご注意ください。




最初は作中の重要な場面で雨が降っているというぼんやりした印象でした。

これまでの雨が降っている主なシーンは
・影山の父親の通夜(高校時代)
・影山が彼女とデートしているところ(高校時代)
・事務所に葵ちゃんが訪ねて来たとき
百目鬼のアパートに行った時

そして現在、倉庫に向かう途中から降り出した雨となります。


振り返ってみると、「囀る鳥は羽ばたかない」で描かれる雨は否応なくやってくる現実の暗喩のように見えます。

32話でかなり分かりやすく描写されていたのですが、車から百目鬼が降りた後、小さな子供とその子が濡れないように傘を差し出す母親の姿が描かれます。
その光景を見た矢代は暗く雨の中に取り残されているような表情。

この傘を差し出してくれる存在が矢代にはずっといなかった。

対する百目鬼は傘。
コミックス2巻の表紙は降ってきた雨に傘を買いにいく百目鬼とそれを待つ矢代の構図です。
囀る鳥は羽ばたかない 2 (H&C Comics ihr HertZシリーズ)


矢代は自分の中に降り込んでくる雨をただ受け入れることしかできない。
百目鬼はその雨から矢代を守る存在として描かれます。

葵ちゃんが訪ねて来たとき例外的に立場が逆(矢代が葵ちゃんに傘を差し出したり、雨に濡れた百目鬼をタオルで拭いてあげたり)なのは、父親という雨に打たれた二人を矢代が救う場面だから。

百目鬼のアパートに行った時もスーツの上着をかけて、百目鬼は矢代を雨から守ります。
ただ百目鬼は自分が濡れるのはお構いなし。
矢代のことは当たり前みたに雨から守るけど、自分は当たり前みたいに雨に打たれる。

これまではどちらかが守ったり守られたり…そんな関係でした。

同じ雨に打たれること

そして今回二人はどちらが傘を差し出すでもなく、初めて同じ雨に打たれます。

これは二人がようやく同じ場所に立ったという場面であり、これから同じ景色を見て歩いていける…そういった描写であると推察できます。
(倉庫に向かうまでの車で、矢代が後部座席ではなく助手席に並んで座ることになったのもその伏線)

再生の始まり

34話は事実だけみると百目鬼は撃たれ矢代は倒れ、二人が雨に打たれているという救いのなさそうな描写ですが、これまでの伏線を拾っていくと、

  • 矢代と同じく人を好きになる痛みを知った百目鬼(頰の傷が何度も強調して描かれるのはその暗示)
  • そして親の呪縛から抜け出す一歩を踏み出した矢代

と二人がついに並んで歩いていける所まできた福音回であり、再生の始まりの回であったと思います。


というわけで囀るファンの皆様、よいお年をお迎えください。

(囀る鳥は羽ばたかない 34話考察 終)

囀る鳥は羽ばたかない 34話考察①「変わる過去、そして矢代が光の中に見たもの」

普段は電子版派なのですが今回は待ち切れず本屋さんでihr HertZを購入。

というのもこのtweetが気になりすぎたから。

過去に関する仕掛けってなんだ。

今回はそちらを読み解いていこうと思います。

以下ネタバレが多数ございますのでコミックス派の方はここでブラウザを閉じてください。








では参ります。

あの時と同じシュチエーション

34話後半、矢代は平田に首を絞められ殺されかけます。

「もうとっくに壊れていた」

矢代のモノローグから、小学生のときの性的暴行ですでに自分は壊されていた、と矢代は感じているように思います。

「ああこれで ようやく俺は 俺を終わらせることができる」

平田が正面からではなく後ろから首を絞めているのも、初めて義理の父親に強姦された時の再現と見ていいでしょう。
精神的に殺されるか肉体的に殺されるかの違い。

あの時と同じシュチエーションで、矢代は親の立場にある存在に殺されそうになる。

”ほんとうは助けてほしかった”

「…妹は よかったな お前がいて」

目を覚ました矢代は、光の中に平田を殴りつけている百目鬼の姿を見つけます。

ただ羨むだけだった百目鬼の妹のように。

あの時は得られなかった助けを。
矢代は本当は欲しかった助けを、ついに得た。

救いだけではなく

目を覚ました矢代に駆け寄ろうとした百目鬼は、隙をついた平田に撃たれます。
それを目の当たりにした矢代は一心不乱に平田を打ち付ける。

これは百目鬼が妹を助けたときの再現ですね。
妹を救うため父親を半殺しにした百目鬼と同様、百目鬼を守るため矢代は親である平田を後先考えず殴りつける。

これはつまり矢代が百目鬼と同じ立場に立ったことになります。

と同時にこれは矢代にとっての初めての親殺し(平田は死んでないけど)。

親に逆らわないために、受け入れるために、子供の頃から自分をグシャグシャに壊して生きてきた矢代。
親に殺されることを受け入れてきた矢代が、ついに親に刃向かった。

”親殺し”の先輩

この34話を読むまであまり意識してなかったんですが、矢代にとって百目鬼は”親殺し”の先輩なんですね。
未熟な部分は多々あれど、”親殺し”に関しては百目鬼はすでに経験済み。

これから矢代が生きていくには救いがもたらされるだけでは不十分で、親との決別の意思を持てるかどうかが重要だったので、今回で矢代の生存確率上がったんじゃないかと個人的な見解(状況的には大変だけど)。

親殺しのイニシエーション

ただそれに伴い平田の言ってた「お前はいつか三角を裏切る」が現実化する可能性が浮上してきました。
親、といっても平田は形式上もいいとこ、つまり矢代にとっては前座も前座で、矢代にとっての親殺しのイニシエーションを三角さんでやる可能性が出てきた。

矢代は三角さんを殺したりはしないでしょうが、三角さんの意思に沿わない、三角さんにとって望ましい矢代とは違う道を選んでいくことになるかと。
そうすると今度は三角さんが大変になる。

なので今後三角さんが親としてどうするか、も問われていくと思います。


次は雨の中倒れた二人について考察。

(続く)