魂の輝きに

「天は赤い河のほとり」の作者が今オスマン帝国のハレムを描く理由ー「夢の雫、黄金の鳥籠」考察①

少女漫画には金字塔と言われるいくつかの作品がある。

1995年から2002年まで連載された篠原千絵の「天は赤い河のほとり」はそのひとつに数えられと思う。
日本の中学生ユーリが紀元前14世紀のヒッタイト帝国にタイムスリップし、軍神イシュタルとして皇子カイルと共に帝国の人々を守り導いていく物語。
天は赤い河のほとり(1) (フラワーコミックス)

あの有名な「BASARA」(田村由美作)と同様、少女漫画で15歳くらいの女の子が民衆に認められ人気を博し国を動かしていくには男性と同じように軍事・政治的に活躍する必要があった時代の作品と言える。

天は赤い河のほとり」の物語の基調は、帝国の民を思いそしてお互いを思い合う二人の愛。
自分の息子と帝位につけようと目論むナキア皇后の権謀術数をユーリとカイル皇子二人の愛で退けていく。


対して現在連載中の「夢の雫、黄金の鳥籠」はオスマン帝国最盛期に舞台を移し、ハレムの奴隷ヒュッレムが第一皇子を差し置き自分の息子を帝位につけようとする物語である。

夢の雫、黄金の鳥籠(1) (フラワーコミックスα)
主人公が皇帝の寵愛を受けることになる少女、という設定は「天は赤い河のほとり」と同じだが、行動の動機は全く異なる。
つまり主人公がナキア皇后の立場にあるのだ。

自ら打ち立てた金字塔作品の設定をあえて覆した物語を今紡ぐ理由はなんだろうか?

そこには「よきもの」とは?についての問題提起、そしてイスラムの世界で女性として比類ない地位を築いた寵姫ヒュッレムに対する世界の考察の浅さがあるように思う。

壮麗王スレイマン一世はなぜそれほどまでに寵姫ヒュッレムを重んじたか?

「夢の雫、黄金の鳥籠」の主人公ヒュッレムは歴史上に存在する人物で、ハレムの奴隷から壮麗王スレイマン一世の皇后に、しかもイスラムの世界において一夫一妻の関係を築くまでに至った人物である。
ロクセラーナ - Wikipedia

ヒュッレムは特筆するような美人ではなかったとの史実があり、彼女の地位は美貌で得たものではないことが分かる。

オスマン帝国最盛期の皇帝であり、世界の半分を手にしていたとも言えるスレイマン一世。
そのスレイマン一世がなぜハレムの一人の奴隷にこれほどまでの地位と待遇を与えたのだろうか?
前例のないことであり、与えない理由はいくらでもあったのだ。

ヒュッレムについては美しい声を持っている、陽気なおしゃべりなどが伝わっているが、それだけで皇后の地位を得たとは到底考えられない。

「夢の雫、黄金の鳥籠」はなぜ寵姫ヒュッレムが比類なき栄光を得たのか、”今”の視点においてもう一度、歴史をそして一人の女を読み解いていく作品である。

(続く)